本州の折れたあたりより南に分布する、常緑蔓性のキイチゴ。林縁の林床にごく普通に見られ、真冬に実る風変わりな種。
ミヤマと付いても深山にあるわけではない、ミヤマフユイチゴ(Rubus hakonensis)。そしてとてもよく似た、フユイチゴ(R. buergeri)。専門家の手にかかれば訳ないのかもしれないが、この両者の区別は難しい。
手元の図鑑(フィールド版・日本の野生植物・木本
/平凡社)を紐解いてみると、茎が無毛か多毛か、葉が広卵形か卵円形か、鋭尖頭か円頭か、で分けられている。前者がミヤマフユイチゴ、後者がフユイチゴの特徴で、また後者には萼に長毛があるという。
ネット情報では他に、花弁と萼は花弁の方が短いかそうでないか、萼の外側は無毛か淡褐色密生か、雌蕊と雄蕊は同長か雌蕊が長いか、などなどある。いずれも前者がミヤマフユイチゴ、後者がフユイチゴの特徴とされる。
また両者には雑種ができやすく、判別が難しいものも多いという。アイノコフユイチゴ(R. x pseudohakonensis)またはアイノコイチゴと呼ぶらしい。
つまりは、根詰めないで諦めた方がいい、ということか……
でも癪なので、ミヤマフユイチゴであったらいいなぁ、と思って採取した株(以下、希望株)と、そのへんで普通に繁茂している株(以下、普通株)を観察してみた。
(希望株)
(普通株)
まず茎が無毛かどうか。
これはすべて有毛で、つまりはすべてフユイチゴで確定となる。
葉の形はどうか。
同じ株でも変化があるが、希望株はおおむね卵形、普通株は円形。葉先はいずれも鋭尖頭で、一部鋭頭。普通株ではまれに円頭。基部は心形。ゆるく3裂ないし5裂する。これで判断すれば、希望株はミヤマ、普通株は雑種あたり。
萼には長毛があるか。
希望株には毛はあるが、短くへばりついている風。普通株は、ふさふさして毛は長い。この点で言えば、普通株は明らかにフユイチゴ。
花弁と萼の長さはどうか。
どちらかが特段短い、ということはない。希望株の方が普通株より小ぶりな感じはするが、短いかどうか有意な差とは判断できず。鉢植えと露地植えの違いかもしれない。
萼の外側は、無毛か褐色か。
上にあるとおり両者に毛は生えている。いずれも白っぽい毛。いずれにも該当せず、よって判別は不能。
蕊の長さはどうか。
希望株はほぼ等長。花粉が雌蕊の先端周辺にちょうど着く。普通株は、はるかに雌蕊が長い。雄蕊のおおむね倍の長さがある。この点では、希望株は明らかにミヤマ、普通株はフユイチゴ。
どの条件が、どれほど信憑性のあるものなのかは判らない。したがって、単純に点数化などで判断することもできない。全体を見れば、希望株はミヤマフユイチゴ、普通株はフユイチゴとして良いと思われる。
蕊の長さの違いは、とても明確で判りやすい。蕾(萼外側)のふさふさ感も印象に残る。あとは葉の外形あたりだが、この辺になると怪しさも増す。
雑種ができやすい、という話がある。できやすいということは、そもそも完璧な(人が分類する上で求める特徴を持った)純粋種は存在しないのかもしれない。片親の特徴が薄まれば、目で見ての同定は困難になる。
交雑しやすいというのは、別種という前提の話。変種、亜種など、同一種内での変化ということはないのか、などとも考えてしまう。
雑種化して、不稔が強く出る種(トヨラクサイチゴなど)もあれば、なんともない種(ヒメカジイチゴなど)もある。トヨラクサイチゴ(R. × toyorensis)の子の一部は、大きな実をよく着けるが、クサイチゴ(R. hirsutus)でもカジイチゴ(R. trifidus)でもない。親のトヨラクサイチゴとも少し違う。ヒメカジイチゴ(R. × medius)を実生で育てると、ニガイチゴ(R. microphyllus)になる。ニガイチゴではないかもしれないが、どこをどう見てもニガイチゴな子が生まれる。
キイチゴは個体差が大きく、雑種化もしやすく、雑種の成れの果ても複雑。なかなか難しい。
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