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現時点までのキイチゴ雑種などについて、いくつかのトピックに分けてまとめる。


■ 謎深いニガクマの子

ニガクマイチゴRubus × nigakumaの実生が育った。一部は開花結実もした。
その結果は複雑。ヒメカジイチゴR. × mediusのようにスッキリと、「ヒメカジの子はニガ」のようには言い切れない状況。

今年のシュートはいずれも粉を吹いていた。前年枝でも粉が残るものもある。葉裏は、まぁ白いかな、というレベル。
花はニガイチゴR. microphyllusっぽい。若実もニガクマよりしっかり窄む。赤熟する。粒には、クマイチゴR. crataegifoliusのような尖りはない。
しかし果柄は、ニガイチゴ様に細いものもあれば、クマイチゴっぽい太くて毛深いものもある。熟した実は枝垂れる株もある。
立ち姿は、ニガクマイチゴやヒメカジイチゴを思わせる立ち性のものも、やや匍匐気味のまったくニガイチゴなものもある。

そもそもニガイチゴ自体も変異が多い。典型としては、1芽に1花、若実は蕾様に窄み、赤熟。結果枝の葉は新シュートのそれより小ぶりで丸い。枝に白く粉を吹き、葉裏も白い。
書籍によってはもう少し範囲は広いが、1芽に3花以上着ける多花型の記述は見かけない。結果枝の葉も、大きくて3裂することもよくある。
ただ、毛深くて太い果柄はニガのイメージと合わない。F2の受粉は自然任せなので、自家ではない近隣との交雑の可能性もある。クマかカジR. trifidusか、市販ラズR. idaeus ssp. idaeusやトヨラクサR. × toyorensisあたりが飛んできたか。
複数株が一鉢に同居しており、個体ごとの見切りもできていないので、現状ではそれ以上切り込めない。

ともあれニガクマは、クマに戻ることはなく、ニガに戻る株はある、とは言える。ニガ、強し。


4/9 ニガクマF2全容

4/9 ニガクマF2、下方の花

4/9 ニガクマF2、立ち性の花

4/9 ニガクマF2、立ち性の花

キミノニガイチゴ(参考)

キミノニガイチゴ(参考)

ニガクマイチゴ(参考)

5/24 ニガクマF2の若実

5/24 ニガクマF2の熟果

■ ヒメクマが初結実

昨年からたくさん咲くようになったヒメクマイチゴR. × geraniifolius。今年は30花ぐらい咲き、いくらかが落ちずに残った。
受粉したものは、6粒、1粒、1粒+21粒。0粒ながら萼だけ残ったものもいくつかあった。

クマイチゴの若実はあけっぴろげ、ミヤマモミジイチゴR. pseudoacerは萼が窄む。中間的な形態であれば半閉じになりそう。
0粒を含む、粒が少ないヒメクマの若実はほとんど窄まなかった。21粒のものだけ「前へ習え」程度まで窄んだ。赤熟すると萼は開き、雄蕊の残骸とともに反っくり返る。
キイチゴは基本、若実は開けっぴろげだが、若実が「窄め」というシグナルを出す種では窄むのではないかと想像する。ナワシロなどは強力なシグナルなのでひとつでも受粉すれば窄むが、そもそも半閉じ程度であろうヒメクマの若実はその作用が弱く、受粉が数粒程度では閉じづらいのかもしれない。

種子は大きい。クサイチゴR. hirsutusやコジキイチゴR. sumatranusは小さく、モミジやニガが一回り大きく、これはさらに大きい。長辺で2mm以上ありそう。もっとも、ボイセンR. ursinus × R. idaeus ※)やブラックベリー系は3mmぐらいある。
果肉は真っ赤。種離れは悪い。ちなみにプロは、数日置いて腐らせたのち超短波洗浄(超音波洗浄?)をするらしい。


5/2 ヒメクマイチゴの花

5/2 ヒメクマイチゴの花

5/2 ヒメクマイチゴの花(拡大)

6/7 葉陰に若実

6/7 ヒメクマイチゴの若実

6/7 ヒメクマイチゴの若実

ミヤマモミジイチゴ若実(参考)

6/18 ヒメクマイチゴ完熟

6/18 事件現場(嘘

6/18 ヒメクマイチゴの種子

■ カジビロード近影

これといった目的もなく、ビロードイチゴR. corchorifoliusを発見した嬉しさの勢いでやっつけたような株。黄実どうし、単葉どうし、毛深いどうしなので、面白みもない……はずが、毛深い3出複葉のができてしまった。

暑さか直射か、いまいち勢いが出ずに小ぶりな株に留まっていたので、今年はカキノキの木陰へ。現在は80cm級まで育っている。徒長気味になったのか葉も大きく、3出の頂葉は3裂、側葉は2裂という、トヨラやブラックベリーに見られる変な葉がたくさん。親はともに単葉なのに。
ビロードはじつは、非常に複葉の出にくい複葉種なのかもしれない。一般的に複葉種であっても、単葉、裂葉、対の少ない複葉、本来の複葉、と葉の大きさ(株の勢い)によって変化する。多くの種はすべてが見られ、そして後者寄りの葉が多いが、ビロードは限りなく前者寄りなのではないか、という予測。過剰な施肥と徒長促進で何か見えるかも。

今年は1つだけ蕾が付いた。が、育たずそのまま枯れてしまった。
この株はどうも脆い。なぜか葉が落ちやすく、萎れるでも枯れるでもなく、青いままポロッと取れていることがよくある。
133粒も播いて数本芽生え、生き残りはどうも一株だけっぽい。過保護に育てたつもりもないが、自然界ではありえない存在なのかもしれない。

ビロード系では、ビロードモミジも試みている。2018年播種分は当年発芽したもののコンタミおよび自家由来(3月に開花も確認)と判明、2019年の分はいまだに発芽ゼロ。
交配して生った実はごく正常に見えるのだが、ビロード母体の雑種はいまだ成らず。


3/29 カジビロード全容

3/29 カジビロードの蕾

3/29 カジビロード新シュート

7/12 カジビロードの葉

■ ハスノハ系実生が好調

一昨年、ハスノハイチゴR. peltatusの黒井沢株は枯れてしまった。神坂峠株も弱ったようで、今年は1花のみ。今のところは葉を茂らせており、今年は強めの遮光で夏を乗り切るつもり。

黒井沢株の忘れ形見(花粉は神坂峠株)は、播種当年に1本発芽して生き残り、翌年(昨年)には数10が発芽し1本が生き残っている。
これら2本のほかに、さらに今年も10程度の発芽があった。ハスノハイチゴは、2年越しの発芽もそれなりにあるらしい。6/2の写真で、小さな本葉があちこちに見えている。
先輩格の2年生、3年生の2本は、現在、植わっている6号鉢(直径18cm)に匹敵する大きな葉を着けている。カキノキの下の木陰なので、徒長気味の可能性もある。

交配種のハスノハモミジは、昨年記事にある矮小奇形株は、やはり冬が越せなかった。
普通の小苗の方は、新しいシュートを2本伸ばしている。90°ほど離れた鉢の縁から出たな、と思ったら、前年枝の脇からも出てきて、ともに凄い勢いで葉を展開している。
こちらも6号鉢。現在の葉長は10cmを越える。遠目に見ると大振りなモミジイチゴ。ただし、全体に赤みが少なく、大きい割には弱そうな雰囲気。葉の裏表には目立たないが毛が生える。触ると少し「もふっ」とした感触がある。

ハスノハモミジの鉢にも、今年はひとつ発芽があった。ただしこれは、ハスノハそのもののように見える。2018年播種の2年越しの自家受粉実生、ということのよう。となれば、黒井沢株セルフの2世になる。
ハスノハイチゴは非常に雄蕊が多い。一方で自家受粉はしにくい。上手く受粉すれば4cmクラスのあの長い実も、自家受粉では5粒着くかどうか、というレベル。ハスノハの交配作業は、花を傷めないことを優先して、雄蕊を完全に除かずに行っている。

なお上から見下ろす写真は、鉢の方向が一致するように回転させたものがある。


4/23 ハスノハイチゴ実生

6/2 ハスノハイチゴ実生

6/28 ハスノハイチゴ実生

4/23 ハスノハモミジ

6/2 ハスノハモミジ

6/28 ハスノハモミジ

7/12 ハスノハモミジ頂芽付近

7/12 ハスノハモミジ若葉表

7/12 ハスノハモミジ成葉裏

7/12 ハスノハモミジ托葉付近

ググっていたら、こんな論文を見つけた。別の雑種のものだが、ハスノハイチゴの雑種についても触れている。

バラ科キイチゴ属ゴショモミジイチゴの新産地とその果実(PDF)からの抜粋
 片親のモミジイチゴは,他の種(ハスノハイチゴ)と,雑種を作ることが知られており,染色体から3系統の雑種が
知られている.モミジイチゴのハプロイドとハスノハイチゴのハプロイドからなるオーミネキイチゴ(R. × ohmineanus
Koidz.)は2倍体で,稔性がない.しかし,モミジイチゴのディプロイドとハスノハイチゴのハプロイドからなるオニモ
ミイチゴ(鳴橋未発表)は3倍体で,稔性がある.モミジイチゴのハプロイドとハスノハイチゴのディプロイドからな
るマルヤマキイチゴ(R. ×maruyamae Naruh.)は3倍体で,稔性がある.ゴショモミジイチゴは山口県の集団のものは2
倍体であり(Naruhashi and Iwatsubo, 1993; Naruhashi, 2001),稔性がない.ここで言う稔性とは,正常なキイチゴ果を作
らなくても,数個の結実した小核果がみられる場合を稔性ありとしている.

ハプロイドは1倍体(半数体)、ディプロイドは2倍体のこと。花粉など生殖細胞が半数体、ふつうの細胞は2倍体でできている。
種無しスイカに代表されるように、3倍体は不稔、というのが常識かと思っていたら、この雑種においては逆にも読める。数個の粒が着けば稔性あり、という線引きにしたためにこうなったと想像する。一般的な見方では、すべて不稔にあたりそう。
ニシムラキイチゴの論文ではトヨラクサイチゴは不稔とあるが、この論文の線引きで言えば稔性ありになる。

かけ離れた半数体同士では相性が合わず、ディプロイドとして存在する場合はそこが生殖活動を頑張るも残りが邪魔をしてる……ようなところなのかもしれない。さて、生まれたこの株はどれに当たるのだろう。

なお、ネット上には、オオミネキイチゴ、オオミネイチゴ、オーミネキイチゴなどの記述がある。原典pdf(p17)では、Ohmine-kiichigoとある。
とりあえずYlist登録ではオオミネイチゴを採っているので、こちらに統一したい。
Ylistでは、この別名としてマルヤマイチゴを挙げる。ネット上などには、マルヤマキイチゴとの記述も見かける。

■ コジキカジF3はコジキイチゴ(?)

ミヤマニガイチゴR. subcrataegifoliusの鉢に、コジキイチゴR. sumatranus様のものが生えてきた。7/18写真内、白い枠で囲った部分。
鳥糞の可能性も否定はできないが、鉢の位置関係からすると、コジキカジF2R. sumatranus × R. trifidusの実が落ちて発芽したようでもある。
コジキカジF2は、2014年記事にあるような、コジキに似つつも粒が大きめの実が着く。最近の印象は、粒ぞろいのよくないカジイチゴ。

ケフシ害で酷いことになっているが、複葉の様子がどうにもコジキイチゴ。少なくとも3対の羽状複葉がみられるので、3裂頂葉+2裂側葉のコジキカジ/カジコジキとは異なる。
毛はやや赤っぽいが、コジキほどではない。毛深いことは確か。
後日、ややずらして撮り直してみると、根元付近に別の羽状複葉が見つかった。幹の毛も、より赤っぽい。18日の写真をあらためて見返すと、それっぽい葉が左下付近に写っていた。

F2でも雑種のままだったコジキカジR. sumatranus × R. trifidusだが、ついにコジキに戻るときがきたのか。
F2F3などは自然交配にまかせっきりなので、仮にF3だったとしても花粉親はわからない。当方ではコジキイチゴは絶えているので、戻し交雑の可能性は無い。

参考に、コジキカジF2の葉も貼っておく。頂葉は3出複葉化し、側葉も裂が深い。この裂は基部側に偏って割れる。普通の羽状複葉ではないので、見出した実生とは異なる。
よく育った葉では、托葉のように1対の小葉が着くものもあった。この小葉も割れるが、こちらは頂葉側に切れ込みが入る。托葉のように着くが托葉ではない。それが判るように、基部の写真を合成してある。

この托葉モドキ、どこかで見たことがあるな……と見回すと、隣のミヤマニガクマ(仮)にそんな葉があった。ニガクマにもある。ニガにもクマにもある。ミヤマニガについては、元気不足のせいか見られなかった。
いずれも、普通の葉の基部に、小ぶりな葉が1枚若しくは対で2枚着く。もちろん、托葉は托葉としてある。ということは、「基部に1対の小葉が着く」ではなく、基部から別の葉が出てきた、ということか。

コジキカジは本来コジキに戻るべきものであって、たまたまニガ・クマ系と交雑したために1代延びてしまった……のか?


7/18 コジキカジF3(?)

7/21 コジキカジF3(?)

7/21 コジキカジF2の葉

■ キミノニガイチゴ系


6/7 ニガイチゴ2色コラボ
どこかで書いたつもりだったのだが、見つけられなかったのでここに記しておく。

キミノニガイチゴは2013年4月21日、浜松風力発電所4号機の北方、道路わきで見出した。当初から大株ではなかったが、それでも20~30ぐらいは実を着けそうなシュートは出していた。
今年枝の一部をもらって挿し木とし、自生地の観察も続けていた。しかし現地の環境は悪化、自生地では絶えてしまった。2015年5月記事にあるのが最後の写真。
実際に育ててみて、特段に弱い印象はない。単に、草刈り、土砂崩れ等、環境運に恵まれなかっただけのよう。

写真は、繁茂すれば見られたであろう赤黄のコラボ。主に、キミノニガイチゴR. microphyllus f. miyakeiとニガイチゴ#3R. microphyllusが写っている。


キミノニガを交えた雑種もいくつかある。


5/5 カジキミノニガF2
カジキミノニガ(ヒメカジ相当)は、F2が開花結実した。

カジモミジや前トピックにあるコジキカジなど、親が黄実どうしの場合は子も黄実になる。トヨラやヒメカジのように、少なくとも片方が赤実であれば子は赤実になる。
では、本来赤いはずだけど黄色いキミノニガでヒメカジを作ったらどうなるの、という実験。結果はなぜか赤実だった(2017年記事)。
毛からして真っ赤なカジから色素をもらったのか、もともと色素は持っていたものの発現を妨げる何かがあって、その箍が外されたからなのか。いろいろ考えはめぐるが解は出ていない。

とりあえずそれから採れた種子を播いたところ、発芽率もよく、たくさんのニガイチゴが生えてきた。ここまでは今までと変わらない、ヒメカジと同じパターン。
親の親がキミノニガなので孫はどうかと思ったが、どうやら普通のニガイチゴのよう。ただし個体差は大きく、幹から赤いものもあれば、葉柄だけのものもある。全身ほぼ緑のものもある。
左下あたりの小ぶりな株は期待させるが、よく見ると葉脈や葉柄の基部が僅かに色づいている。だいぶ時が経った現在も同様。

写真には若実が写っているが、見るからに「普通のニガ」株だったので、確認をし忘れてしまった。ともかく、ほとんどの株は普通のニガイチゴとみなせそう。



キミノニガモミジ実生
キミノニガモミジも試している。
フィールドではモミジイチゴもニガイチゴも、ときにクマイチゴも混生している。花期のズレはあるものの、かぶる期間はある。ニガクマはあるのに、なぜかニガモミジは聞かない。

ニガイチゴは、雄蕊が密生しドームを形成して、その中に蜜を湛え、蜜池の中央に雌蕊がいる。モミジイチゴも似たような形で、ただし株によっては雌蕊が雄蕊ドームより飛び出しているものもある。
いずれも外からの花粉が着きにくい形状。とはいえ、雄蕊を何とか掻き分けようと必死になっているミツバチらもよく見かける。

モミジイチゴを母体にした雑種は結実したためしがなく、今回もダメだった。キミノニガの方も花が傷みやすく、成功率は高くなかったが、なんとか14粒得られた。
播いてみたところ、翌春3月に発芽を確認。2/3程度は発芽したと思われ、おおむね順調に育っている。ちなみに表土は芝の目土(赤玉細粒)。

黄実どうしの雑種のはずなのだが、赤みの差すただのニガにしか見えない。
傷みやすい花なので、開花を待ってからの施術となる。また同じ理由で、雄蕊も完全には除去できない。交配時にはすでに花粉が出ており、自家受粉の可能性はある。
だとしても、キミノニガからニガ、なのか?






【 和名、学名の出典等について 】
  • 標準和名や学名は、基本的に「YList」ページを採用する。
  • Ylistに掲載のないものは、 Wikipediaの「キイチゴ属」ページのものを使う。これには「※」を付す。
  • 交雑種名は、特に著名と判断したものはそれを使う。それ以外は独自名を付す。和名は両親から「イチゴ」を取った合成名、学名は両親を「×」でつないで連名とする。いずれも母体を先頭にする。
    • 例:カジイチゴR. trifidusを母体にコジキイチゴR. sumatranusの花粉を付けたもの → カジコジキR. trifidus × R. sumatranus
  • 雑種は、入手個体を「F1」とみなす。特に必要がなければ「F1」とは記載しない。その子は「F2」となる。たとえばファールゴールドの実生は、「ラズベリー・ファールゴールドF2」と記す。
  • 同種が複数株ある場合は、和名の後に番号を付す。従前1株だったものは、それを#1とする。

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