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ニシムラキイチゴ論文より
何気にトヨラクサイチゴRubus × toyorensisでググっていたら、こんな論文を見つけた。
バラ科ニシムラキイチゴ(Rubus nishimuranus)四国で発見(pdf) : 植物地理・分類研究 バックナンバー第62巻より
内容をざっとまとめる。
カジイチゴR. trifidusとクサイチゴR. hirsutusとの雑種には3つの型がある。染色体数に着目すると、2倍体がトヨラクサイチゴでほぼ不稔、3倍体は不稔性の雑種、4倍体はニシムラキイチゴで稔性を持つ、となる。ニシムラキイチゴは発芽も正常で、雑種由来の「種」と考えられる。ニシムラキイチゴは、小笠原および伊豆諸島で見つかっている。これ以外では、今回の徳島での発見が初である。

ちなみにこの論文で「ニシムラキイチゴ」と呼んでいるものは、Ylistではハチジョウクサイチゴを標準和名としている。また別名として、ハチジョウイチゴ、ニシムライチゴが挙げられている。
雑種起源と考えられるが、学名にあるようにひとつの種として扱われている。


ハチジョウクサイチゴの名前は聞いたことがあったが、「南方離島にある縁のない種。旅行に行ったときにでも見られたらいいな……」ぐらいにしか考えていなかった。
論文からすると、どうやらトヨラクサイチゴF2#1がソレであるらしい。ヒメクマイチゴに続き、図らずも新種を入手(というか作出)してしまったようだ。

F2#1株は、2006年、トヨラクサイチゴに僅かに生ったもの(実着きの様子)をかき集め、種子を取り出して播種したもの。発芽率はよくなかったと記憶する。その生き残りは、他種の数個分もある大きな赤い実を着け、それでいて見てくれはトヨラクサイチゴと大差ない、というものだった。強いて言えば、小葉が太めで鋸歯が深めだが、8号鉢植え観察では明確な差とは言い切れない。ちなみに種子の発芽も確認しており、その子F3もよく生っている。
翌年も同様に試して子株を得ている。そこから生えたF2#2株は、ほぼ不稔だった。親のトヨラクサイチゴと変わらない。実入りが悪く歪にしか生らないが、親のトヨラクサイチゴよりは受粉数は多い。(2021/7/4訂正)
トヨラクサイチゴは非常に実着きが悪く、発芽率も低いが、もし発芽すればトヨラクサイチゴ若しくはハチジョウクサイチゴになるらしい。

染色体数が数えられれば心強いのだが、キイチゴのそれは難しいとも聞く。
一度試したことはある。ネットで手順を調べつつ、ありあわせのキットで染めてみたのだが、核すら見えなかった。
根は採り難いので新芽をひとつ潰したのだが、芽ではダメなのか。それともサフラニンが向いてないのか。タマネギの薄皮ではよく見えたのだけれど。

論文には、トヨラクサイチゴは各地で「ぽつぽつと見つかっている」とある。片手間に眺めるだけでも、浜名湖畔・舞阪町の荒地 篠原町の飛び地、雄踏町の道路わき三方原町の松林(現在は駐車場のアスファルトの下)、隣家の裏、など狭い範囲でもそれなりに見つかる。意識して見る人がいないだけで、親株があれば比較的容易に発生するのではないかと想像する。
浜松あたりでは、クサイチゴはどこにでも生えている。カジイチゴは多くないが、篠原町現場付近には自生(逸出?)があり、庭先や畑での植栽を見かけることもある。カジイチゴの実はヒヨドリがついばむのを確認しているので、少々離れた地に土産を置いてきても不思議ではない。


自生ハチジョウクサイチゴの結実?
@浜名湖畔 (2004/5/22)
自生でこの雑種の結実は見たことはない。ただ、1度だけ、篠原現場で赤い実が生っているのを見たことがある。

4~5mの水路越しで詳しい観察はできなかったが、クサイチゴでは考えづらい地上高で自立しているように見え、雑種特有の複葉がそばにあったと記憶する。
一応撮ってみたのが左の写真。1/3型85万画素、パンフォーカスのコンデジでしかも曇天。残念ながらよく見えない。2004年のことなので、現存するかどうかも不明。

カジイチゴもクサイチゴもトヨラクサイチゴもたくさん生えている荒地。栽培結果のようにトヨラから発生するのであれば、生えていても不思議ではないが、さて。

ちなみに、栽培株のトヨラクサイチゴは、この近辺で採取したものになる。2008年の記事にも、そのころ撮った写真がある。
採取当時は雄踏町だと思っていたのだが、当記事を書くにあたり調べなおしたところ、一帯は舞阪町と判明。さらに当地は、篠原町の飛び地であることが、記事を書いてから判った。浜名湖埋め立てか何かで、権利が交錯しているのだろうか。




【 和名、学名の出典等について 】
  • 標準和名や学名は、基本的に「YList」ページを採用する。
  • Ylistに掲載のないものは、 Wikipediaの「キイチゴ属」ページのものを使う。これには「※」を付す。
  • 交雑種は、種レベルの扱いがあり特に著名と判断したものはそれを使う。それ以外は独自名を付す。和名は両親から「イチゴ」を取った合成名、学名は両親を「×」でつないで連名とする。いずれも母体を先頭にする。
    • 例:カジイチゴR. trifidusを母体にコジキイチゴR. sumatranusの花粉を付けたもの → カジコジキR. trifidus × R. sumatranus
  • 雑種は、入手個体を「F1」とみなす。特に必要がなければ「F1」とは記載しない。その子は「F2」となる。たとえばファールゴールドの実生は、「ラズベリー・ファールゴールドF2」と記す。
  • 同種が複数株ある場合は、和名の後に番号を付す。従前1株だったものは、それを#1とする。

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