まだ霜も下りる2月に芽吹きの記事を書いて以降のキイチゴ。順調に咲いて実っている。
平地自生種とボイセンがほぼ終わり、インディアンサマーなどの園芸種が盛りを迎えつつ、エビガライチゴ(R. phoenicolasius)の大量の若実がまもなく熟す、という段階。
開花はいつもどおり、モミジイチゴ#2(Rubus palmatus)から。クサイチゴ(R. hirsutus)、カジイチゴ(R. trifidus)らに少し遅れてニガイチゴ(R. microphyllus)、といういつものパターン。
モミジイチゴは立ち性の#1、#3の実りがいい。#2は開花時期がやや早いため、虫が少ないとか、自家受粉しにくいが相手がいないとか、なにか理由があるのかもしれない。
昨年仲間入りのビロードイチゴ(R. corchorifolius)。予想通り、大株は開花してくれた。
他の種と同様、数10cmに切り詰めて8号鉢に植えてあるが、100は下らないレベルの開花をみた。ただし、結実はわずか数個。来年は2株とも開花する見込みなので、大量結果を期待したい。
ビロードイチゴは黄実とされているが、以外と赤っぽかった。個体差もあるとは思われるが、カジイチゴの紅点の色が全体に回ったような感じ。ニガイチゴの赤味が少ない株といい勝負。
実った数が数なので、風味食味はしっかり吟味できてない。一般的な自生種キイチゴ風味で普通に甘い……のは間違いない。
特異な点としては、果托が取れない。一般にラズベリーはズッポリ抜ける。ブラックベリー類も抜けないが、ラズベリーで抜けないのは、ほかにハスノハイチゴ(R. peltatus)ぐらい。
ニガイチゴ系が結構増えたので、色比べなどをしてみた。
左から、カジキミノニガ、ヒメカジイチゴ(R. × medius)、カジモミジ#1(ヒメカジ)F2、ヒメカジF2、ニガイチゴ#1、キミノニガイチゴ、クマイチゴ(R. crataegifolius)。
ヒメカジイチゴの実生は、ニガイチゴとみなしてよい。
ワインレッド級に赤いニガイチゴは手元にないので、クマイチゴにご出場いただいた。ニガイチゴは赤実とされるが、真紅から橙まで色の変化は大きい。
赤色素が発現しないキミノニガイチゴは、黄色というよりレモン色。モミジイチゴ、コジキイチゴ、カジイチゴ、ファールゴールド等々の黄実種とも明らかに違う、透明感のある薄黄色。
ここにしれっと登場したカジキミノニガは、2015年に交配し、先日の記事では紅葉などを記した株。
どう見ても「キミノ」の面影は無い、ごく普通のヒメカジイチゴになった。とりあえず生ったのは一株のみだが、果実以外の特徴を見ても普通のヒメカジのよう。
ヒメカジの子はニガイチゴに戻るが、これの子はニガイチゴになるのかキミノニガイチゴになるのか。前者のような気がするが、一応播種はしておいた。
雑種と思われる株も熟した。
島田市の山中で見かけたニガクマイチゴ(R. × nigakuma)らしき個体。現地ではわずかな若実を見たのみだったが、開花から完熟まで見届けることができた。
葉の形状はクマイチゴっぽいが、毛が無い。幹の斑模様もなく、トゲもクマイチゴのような凶悪さは無い。トゲの生え方はニガイチゴに近い。幹や葉裏は白くない。
蕾は、小枝を伸ばし、先端に複数個つける。ニガイチゴは、さほど枝は伸ばさず、1花から複数花まで変化に富む。クマイチゴはほぼ間違いなく複数花。
花柄は上へ伸びるが、蕾自体はクッとお辞儀する。この様はクマイチゴに似るが、お辞儀の仕方はクマイチゴに及ばない。ニガイチゴはお辞儀しない。
花はニガイチゴに似る。ただ、開花中に雄蕊が開く。ニガイチゴではほとんど開かない。ニガイチゴ系雑種のヒメカジイチゴでも、同様に開く現象がある。
若実の萼はほぼ閉じる。ただし、ニガイチゴは蕾と見まごうほどギュッと締まるが、こちらはゆるく羽織る感じ。クマイチゴはまったく閉じない。
熟すと赤くなる。粒の形状はクマほど尖らないものの、柱頭の名残は残る。写真では熟した実の萼も莟んでいるが、さらに日をおけばしっかり開く。
みごとに中間的な特徴なので、ニガイチゴとクマイチゴの雑種、ニガクマイチゴと断じてよいのではないだろうか。
2018/5/20追記:
たくさん生ったので味をみてみたところ、ほのかなエグ味を感じた。つまり、味はニガイチゴになる。クマイチゴにはそれは無い。
もう一件、恵那山の北の神坂峠で見つけたミヤマニガクマ(仮)も、わずかに結実している。花は結構な数が咲いたのだが結実は少ない。受粉した粒の数も少ない。現在は若実の状態で、萼は半閉じ。
現地では、「やけに緑緑したクマイチゴ」という印象。一見クマイチゴだが、何か違う。よくよく見ると斑も毛も無い。全体に間延びしてナヨッとした感じ。ニガクマだとすれば、現地ではミヤマニガイチゴが大勢なので、ミヤマニガクマといったところか。
ただ、あらためて眺めてみると、ニガとは違う女々しい感じがする。クマの血が入っているのは間違いないとして、雑種の相手は別かもしれない。
神坂峠ではミヤマモミジイチゴも生えていた。弱々しい雰囲気で、粒も少なく、若実では萼が閉じている。だとすると、ミヤマモミジクマとでも呼ぶのだろうか。ググってみても、その雑種の報告は見当たらない。
【 和名、学名の出典等について 】
- 標準和名や学名は、基本的に「YList」ページを採用する。
- Ylistに掲載のないものは、 Wikipediaの「キイチゴ属」ページのものを使う。これには「※」を付す。
- 交雑種は、種レベルの扱いがあり特に著名と判断したものはそれを使う。それ以外は独自名を付す。和名は両親から「イチゴ」を取った合成名、学名は両親を「×」でつないで連名とする。いずれも母体を先頭にする。
- 例:カジイチゴ(R. trifidus)を母体にコジキイチゴ(R. sumatranus)の花粉を付けたもの → カジコジキ(R. trifidus × R. sumatranus)
- 雑種は、入手個体を「F1」とみなす。特に必要がなければ「F1」とは記載しない。その子は「F2」となる。たとえばファールゴールドの実生は、「ラズベリー・ファールゴールドF2」と記す。
- 同種が複数株ある場合は、和名の後に番号を付す。従前1株だったものは、それを#1とする。
10 件のコメント:
今日初めてあなたのHPを見ました。過去にさかのぼっていくつかのキイチゴに関するプログを読みました。あなたのようなキイチゴ”オタク”を今まで知りませんでした。
私もキイチゴを沢山栽培していましたが、10年前停年とともに、植物を処分してしまいました。今となっては、ガラス室で栽培していたクワノハイチゴやアメリカを経由して手に入れた中国の4倍体のナワシロイチゴは残念に思っています。
神坂峠のミヤマニガクマ(仮)の写真を見ましたが、拡大するとぼけてはっきりしません。トゲや葉の鋸歯の状態、花弁の様子を知りたく思いましたが。
可能性としては、ミヤマニガイチゴ × クマイチゴだろうと思いますが、日陰に生育するクマイチゴそのものの可能性もありますね。
ラズベリー類の中で、ビロードイチゴとハスノハイチゴの集合果の取れ方が違うと気づかれたのは、さすがです。他に、同様の型は、ゴショイチゴです。
> アメリカを経由して手に入れた中国の4倍体のナワシロイチゴ
庭先のに薬剤かけて、作れたりしないものですかね……
フユイチゴ系は数が違うといいますし、トヨラクサイチゴの実着きのいい実生株は倍数体か何かじゃないかとか、
そんなこんなで数ぐらいは数えたいと思っているんですが、なかなかそちらにリソースが割り当てられないでいます。
ミヤマニガクマ(仮)の詳細については、追々ということで。
4倍体の作製は、やり方は簡単ですが、なかなか成功しないものです。私は他の植物でやりましたが、成功しませんでした。染色体数を数えることは、易しいことですし、また難しいことです。つまり、植物の種類によります。キイチゴ属は非常に難しいものです。
2016年6月27日のビロードイチゴを探すを読みました。愛知県の定光寺の標本は数点ありますが、古いのは東大にあり、1925年の採集です。静岡県には和田山にあります。標本は1961年渡辺氏採集熊大です。
聞いたことがないのですが、和田山というのは熱海でしょうか。
大井川に、熱海……県下では、ごくまれに生き残りが点在している感じでしょうか。
なお、特定記事に対するコメントは、その記事に付けてくれるとありがたいです。
古い記事であっても、コメントが付けば管理者に通知されるので、見逃されることはありません。
申し訳ありません。標本のラベルを写したのですが、それによると
Shizuoka: Mt. Wada-yama, Inatsuki-machi, Kaho-gun
となっていました。
調べたところ、このラベルの和田山?は福岡県でした。
申し訳ありません。そんな訳で、いまのところ、ビロードイチゴは静岡県にはなさそうです。
K-ichiさんへ
沢山の人工雑種を作出されているようで、その努力に感心しています。できれば、可能であれば、来年度モミジイチゴとハスノハイチゴを掛け合わせてくれませんでしょうか。
自然にはこれらの雑種として3つの型の植物が存在します。オーミネキイチゴ、マルヤマイチゴ、オニモミジイチゴです。これら3つは形態的にはっきりと区別されますが、国際命名規約上は、雑種オーミネキイチゴとされます。実際に人工交雑したときに、どの型がでるのかが知りたいのです。どちらを母親にしても3つの型ができることはないかと思いますが、偶然にも自然界同様、成功するかも分かりません。3つのうちオーミネキイチゴは近畿、中国地方、九州とモミジイチゴとハスノハイチゴの分布地では良く見られます。しかし、他の2つはそれぞれ1カ所で発見されているのみです。
残念なことは、太平洋側の平地ではモミジイチゴとハスノハイチゴの花期が違うので、花期を合わせるか、花粉の貯蔵を工夫するかしないと掛け合わせをすることができません。この点の工夫が必要です。
ここ1,2年は他の植物で忙しいので、コメントを投稿するのはこれで終わります。3年後のK-ichiさんのプログを楽しみにしています。 Rubus very berry より
考えてみます。
ただ、そもそものハスノハ栽培が軌道に乗っているとは言い難い状態で……
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