since 2007.8 by K-ichi

テフロンなどのフッ素加工フライパンしか目にしなくなった昨今。皮膜に気を使わず使える、鉄フライパンが欲しくなった。
予習してみると、買ったそのままでは使えないらしい。コーティングの無いフライパンや鋳造のスキレットといった類は、シーズニング(≒油ならし)なる作業が必要で……と調べていくうちに、深い深い森に迷い込んでしまったよう。もう遭難しそう。

タレント周富徳らを見てきた世代には、新品の中華鍋(≒鉄フライパン)は、焼きを入れてから香味野菜クズを炒め付ける、という定番パターンが染み付いている。今ではそうとは限らないらしい。
ざっくりまとめると、
  1. 中華鍋でお馴染みの、焼いてから野菜クズ炒め
  2. たっぷりの油を少し火に掛ければOK
  3. 焼いてから、油の皮膜を重ねる(育てる)
  4. 醤油を焦がしてコーティング
といったところ。
また普段の使い方にも流儀があり、宗派を細分化すれば系譜で巻物が作れそう。


最初の中華な人々について。

新品の鍋はしっかり焼きを入れ、しっかり洗い、ふたたび火に掛けてたっぷりの油で「油ならし」をし、野菜クズを炒めて鉄臭さを消す。使用していくうちに焦げ付きが酷くなった場合は、新品と同じように焼き切って焦げを灰にし、同様の作業を行う。
普段使いでは、まず煙が上がり始めるぐらいまで熱し、多めの油を入れてまわしてから油をあける「油返し」をしてから調理を始める。調理後は熱めのうちに湯で洗うが洗剤も使う。保管時は、熱して乾かすか水切れを確保するかして、濡れたままにしておかない。
極端に急で大きな温度変化は鍋の変形につながる場合があるので注意する。

昔から聞いているやり方。科学的論拠はよくわからないが、プロの話はこんな感じ。
安心感はあるものの、毎日大量の調理をするプロと、場合によっては数日以上しまったままになる一般人とでは、一緒にはできない部分もあるかもしれない。


2番目は、メーカや販売元に多い。

たとえばこことかこことか。油ならしを繰り返せば強固な皮膜ができる、油をなじませる、などと言いながら、油を弾いているようにも見える。
流通時のサビ止めコーティングに無害なものを使っていて、酸化鉄のような皮膜も作ってある製品であれば、穏やかな作業で十分。敢えて危険な焼入れをさせる必要はない、という判断かもしれない。


次の、フライパンを育てる、この類は一番深い。科学的(化学的)論拠を引っさげての解説もあり、信用してしまいそうだけど疑問点もある。

論拠を理解するための基礎知識を整理しておく。
食用油脂には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とがある。飽和脂肪酸は、ステアリン酸などに代表され、メチル基(CH3)に始まって、単結合でずらっと並んだ炭素原子に十分な水素が付いて、最後にカルボキシル基(COOH)で終わる長い分子になっている。
不飽和脂肪酸は、同様に並んだ炭素の一部に水素が不足していて、そこの炭素同士が二重結合になっている。その二重結合の位置がメチル基側から数えて、たとえば3番目だとn-3とかω-3などと呼ぶ。この二重結合が分子内に1つの場合は一価不飽和脂肪酸、複数の場合は多価不飽和脂肪酸と区別することもある。一時期流行ったDHA、EPAなどはω-3の多価不飽和脂肪酸になる。DHAは実に6ヶ所もの二重結合を持つ。
二重結合の部分は反応性が高く、酸化されやすい。この酸化と重合によって丈夫な油膜が作られる(このあたりは理解至らず、論拠不明)。
二重結合が多ければ多いほど酸化されやすい油脂といえる。二重結合の多さはヨウ素価という指標で判断できる。二重結合が多ければ、自然と酸化されて乾いたようになりやすい。ヨウ素価が130以上を乾性油、100以下を不乾性油、中間を半乾性油、と呼ぶ。
ヨウ素価は、油脂100gに対してヨウ素が何g化合するかを表す。ひとつの炭素二重結合に対しひとつのヨウ素分子(I2)が付加反応する。オレイン酸(オリーブオイルなど)のみで構成される油脂があったと仮定すると、それはグリセリンにオレイン酸が3つくっついたトリオレインという形で存在する。C3H5(C18H33O2)3=C57H104O6なので分子量は約884。油脂100gには100/884mol個のトリオレイン分子が含まれる。オレイン酸の二重結合はひとつ、トリオレインなら3つなので、I2が3*100/884mol個化合することになり、このI2の重さがヨウ素価の値になる。I2の分子量は約254なので、254*3*100/884≒86、文句なしの不乾性油となる。
計算例は農水省のページなどがある。ググると、TE化粧品性分オンラインなど、ヨウ素価リストもいくつか掛かる。

数多くあるページ、動画の中で、解りやすく理に適っていると感じたのが、こうせい校長氏のYouTube動画。熱してコーティングを焼き切り、酸化鉄皮膜を作り、乾性油でコーティングして自然乾燥的に皮膜を作る。これを何度か繰り返す。ちょっと喋りが特徴的でもある。
ただ、コーティングされた油は酸化されたもののはずで、それを口にしても大丈夫なのか、油返し無しでいいのか、というのは気になった点。もっとも、油煙を上げて褐変するほど熱して、換気扇の油汚れがコーティングと同じ、などと言うものに比べればきれいな油膜ではある。

動画の中で氏は、洗剤で洗って構わないと言っている。多くの流派において洗剤は禁忌とされていて、メーカらも、プロと思われる人の中にも言う人はいる。
大丈夫という人は少数派ながら、探せばこの動画これこちらで固定されてるコメントなどがある。ガッテンで言ってたという話もあれば、NHK for schoolでも書いてある。

個人的には洗剤で洗ってすっきりしたい派。頻繁には使わないので、乾性油のひと塗りはするかもしれない。……フライパンはまだ買ってないけれど。


衝撃的だったのが醤油派

フライパンを熱し、醤油を薄く塗りたくり、焦がして煙が出なくなったらもう一度塗る。その後自然冷却、洗浄。金ダワシはダメだが、固いスポンジ、洗剤はOK。
見たところ、醤油の褐色がなくなり煙も出なくなるまで熱するので、炭のような状態のコートがされているんじゃないかと想像。めんつゆでもできたとのコメントもある。
使用する際は、フライパンが冷えた状態で油を引いて調理物を載せ、火に掛ければいいという。
醤油系特有の成分が影響している可能性もあるが、砂糖水や味醂などでもできそうな気がする。

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