iPS細胞の臨床研究に保険
11/1付日経新聞によれば、損保大手が、iPS細胞の臨床研究に対する保険を設計中、とのこと。
東京海上、損保ジャパン、三井住友など大手保険会社は、iPS細胞臨床研究での事故に対する保険を設計している。
試算では、被験部位などで異なるが、1億円の支払い契約で掛け金は500万円以上。被験者に後遺症が発生したり死亡したりした際の賠償金、治療費、慰謝料、訴訟費用などを想定する。一般に、被験者が死亡などした場合、数億円の賠償金が発生する。
……というような内容。
殺人事件でも「数億円」まではなかなか聞かない気がするが、万が一にはかなりかかるらしい。当初被験者は「それしか可能性が無い」ような人がなるのだろうが、それでも莫大な賠償金が出るのだろうか。ともあれ、リスク管理をその道のプロが背負ってくれるのは歓迎したい。
1億円で500万円となると、20人に1人の見積もり。これを高いと見るか低いと見るか。
iPS細胞の臨床研究、足踏み
各社報道によれば、理化学研究所(理研)が計画している「加齢黄斑変性」へのiPS細胞臨床研究について、11/19に同所倫理委員会が承認した、とのこと。
同月21日には、実際に治療を行う先端医療センターの倫理委員会も審査をしたが、こちらは承認されなかった。さらに12/19にも委員会は開かれたが、再び継続審議となった模様。
同センター承認後、さらに厚労省での承認を受けてから、実際の臨床研究が実施される(解説ページ)。
この臨床研究は、皮膚細胞由来のiPS細胞から網膜細胞を作成、シート状に培養してから移植する、というもの(解説ページ)。
癌幹細胞のマーカーを発見
12/3の京大のリリースによれば、妹尾浩氏らは、「癌幹細胞」を見分ける目印を見つけたという。
正常組織と同様に、癌にもおおもとになる癌幹細胞がある、といわれている。抗癌剤などで癌細胞を叩いても、癌幹細胞が残っていると再発する。しかも生き残ったしぶといやつが元になるので、余計に性質が悪い。
癌幹細胞を狙って叩ければ都合がいいが、正常な各種幹細胞と癌幹細胞とを見分ける目印がなかった。今回発見されたDclk1を目印に使えば、癌幹細胞だけを叩くことができる可能性がある。
ライフサイエンス新着論文レビューのページが詳しい。
iPS細胞の高速増殖法を開発
京大の中辻憲夫氏や阪大の関口清俊氏らは、iPS細胞を効率的に、かつ安全に増殖させる手法を開発した。(リリース全文PDF/概要)
細胞培養の足場として、ヒト由来のラミニンという蛋白質の断片を使う。これにより、増殖が早まり品質も高まった。従来の200倍以上の効率という。作業難度も下がり、また、ウシなど動物由来の物質を使わなくてよいため、安全性も高まる、とのこと。
癌の免疫療法に新手
癌治療は、外科手術、抗癌剤、放射線治療が主だが、免疫療法(Wikipedia)もある。いずれも癌を叩くことに重点を置いていたが、免疫療法に関して、別の手が開発されつつある。
癌などを発症すると、体内ではリンパ球(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞)が攻撃をする。ただ、免疫系の暴走を抑制するためのリンパ球(制御性T細胞)というものも存在し、これが癌細胞にとっての盾になっていた。
12/25付日経新聞によれば、滋賀医大の小笠原一誠氏らと東レ、および京大の木村俊作氏らと阪大の坂口志文氏らと旭化成は、それぞれ独自の方法で、血液から制御性T細胞を除去する方法を開発した。前者は、ラットの実験で、移植した癌が育たなかったという。
一方でこの制御性T細胞を使って、自己免疫疾患やアレルギーの治療に使おう、という研究も行われている。こちらは本来の、免疫暴走を止める働きを利用しようというもの。
基礎知識:
血液には、赤血球、白血球、血小板という、血液細胞もしくは由来のものが存在する。赤血球は酸素を運び、白血球は免疫や異物排除などで体を守る。白血球は、複数の種類を包含しており、ひとまとめにこう呼ぶ。リンパ球は白血球の一員であり、さらにB細胞、T細胞などに分類される。さらにT細胞には、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞などがある。
免疫細胞をiPS細胞化
理研の河本宏氏らは、T細胞を元にiPS細胞を作り、そこから再び同じT細胞を得ることに成功した。
iPS細胞は一般に、採取母体負担の少ない皮膚細胞などから作られ、さまざまな細胞に分化させる。わざわざT細胞を元にして作成したのは、そのT細胞が持つ免疫情報を、iPS細胞化しても持ち続けられるため。
キラーT細胞は、免疫情報を自らの遺伝子を組みかえることで記憶する。癌を見分けて攻撃できる能力を得たキラーT細胞をiPS細胞化し、増殖、分化させれば、同じ能力を持つ、かつ若くて元気のいいT細胞が大量に得られる。それを体内に戻せば、自分の免疫力が増大したのと同じ状態になる。
慢性疾患では、キラーT細胞が疲弊し、攻撃力のある細胞の数自体も減っていた。従来の免疫慮法では、この数少ない戦力を、何らかの方法で鼓舞し活性化させていたが、もともと数が少なく、細胞寿命まで短くなるという大きな弱点があった。これが解決される。
理研に1/4付のプレスリリースがある。PDF版には、キャラクター図解入りの解りやすい解説も入っている。
同様の考えで、エイズに対するT細胞のiPS細胞化も成功した。 東大の中内啓光氏らは、エイズ患者からキラーT細胞を得てiPS細胞化した。それらしいリリースは見当たらないが、NHKニュース映像がある。またググると、昨年6月11日付で、すでに記事になっていたらしい。
iPS細胞は、リセットされて何にでもなれる状態の細胞。一般的には「赤ん坊に戻った」イメージ。ところがこの新技術では、すでに獲得している知識知恵は持ったまま、体だけ赤ん坊に戻るらしい。
前記事では敵の盾を奪い、この記事では矛と精鋭を大量生産する。免疫療法の立ち位置が、大きく変わる日が近いのかもしれない。
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