since 2007.8 by K-ichi


3/28 庭の勝手生え桜
春分を過ぎて桜も咲き、時には20℃を超える汗ばむ陽気。キイチゴらも花盛りを迎えている。

畑に下ろしたビロードイチゴRubus corchorifoliusは、昨年11月からず~~っと咲き続けているが、鉢植えも咲き出した。先陣を切っていたモミジイチゴR. palmatusやカジイチゴR. trifidus、勝手生えのクサイチゴR. hirsutusなども続く。
トヨラクサイチゴR. × toyorensisや、その子ニシムラキイチゴR. nishimuranusは、でっかい花をぼんぼん着けている。今年はヒヨドリ対策も考えねば。


3/28 ミヤマニガイチゴ
調子が低位安定気味のミヤマニガイチゴR. subcrataegifoliusは、今年のシュートの先に蕾を着けている。もちろん前年枝のほころんだ冬芽にも着いてはいる。それよりも大きくて立派。
2011年夏に採取したこの株。2012年夏2013年夏にも同様に咲いている。このころレベルまで落ち込んだということか。

新しいシュートの先に蕾を着けるのは、クサイチゴで見たことがある。こちらは絶好調にモリモリに茂った中で見つけた。
2期生りのラズベリーの秋果も、季節は違えど生り方としては同じ。とりあえず咲かせる手段としては、多くの種が持っているものなのかもしれない。

その他ニガイチゴ系の雑種も順調に育って、蕾を着けたものもある。姿を眺めていると、微妙で悩ましいものが多い。




キイチゴの世界(¥3500税別)
以前コメントを頂いた方(?)から、とある掲示板経由で本を紹介された。
キイチゴの世界 生活史の多様性とその適応・進化(鈴木和次郎著・日本林業調査会/J-FIC)という。昨夏刊行、早くも絶版。なかなか厳しい。

著者は、営林局などに勤めており、人工林間伐後の植生変化調査に携わったことで、キイチゴとの接点を持ったという。
樹木のくせに2年で枯れて更新してしまう変なやつ、林業にとっては敵でしかなく研究もされてない、そんな外れたところが当時の自身に重なったとか。最終的には博士号も取っているらしい。

林業における価値と役割、というのがベースにあるので、日本のキイチゴの生態調査が基本となる。
ブラックベリー様の、茎が伸びて地に着いた先で根を張る形態を「布石型」、ラズベリーのような地下茎を伸ばしてワープして生えてくるタイプを「地下分枝型」と呼んでいる。前者はフユイチゴ、エビガライチゴなど、蔓性、半蔓性のものが、後者にはモミジイチゴ、ニガイチゴ等々、キイチゴらしいキイチゴが該当する。ナワシロイチゴは両方の性質を持っている。
そういった形態の別、生殖増殖の仕方、環境変化などさまざまな条件のもと、部位ごとの乾燥重量の変化を調べたり、株数を数えたり、狭い庭で片手間ではできそうもない調査を行っている。世界のキイチゴも見てまわり、日本の自生種の各々の出自なども考察している。

雑種をいじる当方とは切り口がだいぶ違うが、読み応えのある一冊と思う。


雑種いじりに関わりそうな情報もあった。
キイチゴは基本的に自家不和合性である(p59)という。これが真であれば、雄蕊除去のような面倒でリスクのある作業を省略できる。
実際、フユイチゴやハスノハイチゴは、ながらく結実を見なかった。ふた株目の別株を入手したところ大豊作。
一方で、クロイチゴやエビガライチゴ、ニガイチゴ、クマイチゴあたりは、ひと株しかなくてもモリモリ生っていた。すべて雑種の実ができているとも思えないのだが……

発芽条件を検証した項(p117~)もあった。
キイチゴは好光性種子であり、光がないと埋土種子化するという。
はじめてモミジイチゴを播いたとき、ただのひとつも出なかった。丸ごとそのまま、および種子を取り出して、両方試すもまったく出なかった。このときは1cmほど覆土していた。
ちなみに現在は、腰水で乾燥を防ぎ、鳥糞コンタミと雑草進入を防ぐべく古い網戸を被せ、果肉を除いた種子は表面にバラ撒きしている。

発芽状況は晒された温度によっても変わるという。また種によってその変わり様も異なる。
カジイチゴは播種当年発芽が多く、他の種は翌春が多い。ハスノハイチゴは翌年が最大だが、当年から播種3年後まで発芽をみている。
本書の実験では、まず温暖な環境で発芽を試み、しなかった種子に対しては低温(冬に相当)を体験させてから再び発芽を試み、これを繰り返す。カジイチゴはいきなり発芽するものが多く、モミジイチゴは冬越し後に多くが発芽するという。これは播種経験の感覚に合う。
ハスノハはずっと発芽率が悪いまま、という。発芽条件と実験条件が合わなかったのかもしれない。だらだらと何年後にも芽が出る雰囲気は再現されている気もする。

ニガモミジが存在する(p34,p56)らしい。
ニガクマは聞くがニガモミジは聞かない、というのは謎であり手元での事実であったのだが、筑波山には生えているらしい。
p56では原色日本植物図鑑 木本編〔Ⅱ〕(1979)を参照先としてある。ここの文章では、ニガモミジもニガクマも載っているように読めたが、当該図鑑にはニガクマの記載しかない。
ニガクマについては、Ylistで検索すると、A.P.G.25(1)を原記載文献として挙げている。これはJ-STAGEで検索して3番目にある「日本産キイチゴ属に関する報告2」で読める。当論文には、オオタキ、オオミネ、マルヤマなど雑種も書かれている。

異を唱えたいところもあった。
カジイチゴは、キイチゴで一般的な2年ではなく3年目で完全に枯れる(p152)、とある。主幹はまだらに死につつも5年目で枯れた実例もあるので、多くは3年目、程度にしておきたい。2年で枯れるものも当然ある。
春先に、赤い毛だらけのシュート様の芽を吹くことがある。これは地面から出るものと同様の性質を持つ。比較的地際が多い気もするので、地上茎でありつつも地下茎の役割を担わされた形ではないか、などと想像する。

ニガイチゴの解説(p33)で、花は単生とある。そう書かれた図鑑も見かけるが、複数花着く株(多花)も珍しくはない。ミヤマニガイチゴは複数花着けるが、それとの交雑にも縁のなさそうな低山里山でも見かける。
もしかしたら、ニガクマやヒメカジのニガ寄りパターン、若しくはその実生でクマやカジの特性を引きずるもの、または何かとのさらなる交雑、などなのかも。

クマイチゴの解説(p34)では、実は小さく食用にはまったく向かないとまで書かれている。クマイチゴはちゃんとした大きさで生り、ジュース感の他種と違って果肉感を感じるしっかりした実になる。最近では超大王なる選抜種(?)まで販売されている、ふつうに美味しいキイチゴである。


この本には多くの引用があり、本文中では参考文献の執筆者と発行年のみ記載されている。巻末に論題など詳細を含めて列挙してある。
ありがたいことに、最近は論文などはネットでも見られるようになっている。興味を惹いたものを挙げておく。

Naruhashi N. and Satomi N.(1972) The distribution of Rubus in Japan-1
 キイチゴ各種の分布図。金沢大学学術情報リポジトリで検索すると出てくる。
Iwatsubo Y. and Naruhashi N.(1992) Cytotaxonomical studies of Rubus(Rosaceae)
 日本のキイチゴ(雑種を含む)の染色体数を調べる。処理手順の記載あり。植物研究雑誌(J.Jpn.Bot.)の67巻p270~275。
Naruhashi N., Iwatsubo Y. and Peng C.(2002) Chromosome number of Rubus(Rosaceae) in Taiwan
 台湾のキイチゴの染色体数を調べる。BBASのページにリストがある。Volume43 Number3のp193~
本草図譜 巻25蔓草類1
 日本初の植物図鑑といわれる。キイチゴが含まれるのは25巻。国会図書館デジタルコレクションで検索すると出てくる。





【 和名、学名の出典等について 】
  • 標準和名や学名は、基本的に「YList」ページを採用する。
  • Ylistに掲載のないものは、 Wikipediaの「キイチゴ属」ページのものを使う。これには「※」を付す。
  • 交雑種名は、特に著名と判断したものはそれを使う。それ以外は独自名を付す。和名は両親から「イチゴ」を取った合成名、学名は両親を「×」でつないで連名とする。いずれも母体を先頭にする。
    • 例:カジイチゴR. trifidusを母体にコジキイチゴR. sumatranusの花粉を付けたもの → カジコジキR. trifidus × R. sumatranus
  • 雑種は、入手個体を「F1」とみなす。特に必要がなければ「F1」とは記載しない。その子は「F2」となる。たとえばファールゴールドの実生は、「ラズベリー・ファールゴールドF2」と記す。
  • 同種が複数株ある場合は、和名の後に番号を付す。従前1株だったものは、それを#1とする。

9 件のコメント:

ルブス さんのコメント...

ルブスより、初めて投稿します。

自家不和合性についてです。
鈴木和次郎氏の本の147頁に”キイチゴ属は自家不和合性なので、・・・”と書かれています。
しかし、私の記憶では、ナワシロイチゴやモミジイチゴは自家不和合性があり、ゴショイチゴ、コジキイチゴ、カジイチゴは1株でも実り、自家不和合性がないように思います。ホーロクイチゴは開花の初期、中期の花は実りませんが、後期の花は実りました。これは他の花の花粉がかかったものか、それともホーロクイチゴ自身の生理的変化によるのか、原因は不明です。
一般に、キイチゴ属植物には自家不和合性がある種と無い種があると思っています。


ルブス さんのコメント...

カジイチゴの茎の寿命について。
鈴木和次郎氏の本の152頁に”3年目にはこの地上茎全体が枯死する”とある。
しかし、あなたの言うように、3年目でも茎が枯れないものもある。
カジイチゴは秋風が強く当たる寒地では地上茎は2年で枯れる。しかし、暖地で寒い秋風が当たらず日当たりが良いところでは、茎の上部は2年で枯れるが下部は3〜4年生きている。あなたの観察したように5年も生きているのもあるかと思う。
カジイチゴは常緑ではなく、半常緑と思っている。


K-ichi さんのコメント...

>私の記憶では、ナワシロイチゴやモミジイチゴは自家不和合性があり
ナワシロは野良で茂り、モミジは初期から複数株だったので確認できなかったのですが、やはりあるんですね。「育ててみたけど生らない」という話はけっこう聞きます。
畑に下ろしたモミジの実生株がひと株あるので、仮に生ってその実生で混ざりっ気の無いモミジが出るようなら反証になるわけですが、うまくいっても再来年ぐらいになりそうです。

ルブス さんのコメント...

自家不和合性があるかどうかを調べるのは大変なことです。
まず、つぼみの時に雄蕊を除去し、袋をかけて、その後、開花したと思う頃、同じ個体の雄蕊(これが重要)から花粉を取って、袋の中の雌蕊につけて、さらに袋をかけておくのです。
しばらく経って雌蕊が膨らんでくるかどうかを調べます。雌蕊が膨らんでくれば、自家不和合性が無い、膨らんでこなければ、自家不和合性があると言うことになります。
蕾が若い時に雄蕊を除去すると雌蕊を痛めたり、蕾自身を痛めることになり、また、蕾が十分に成熟すると、雄蕊を取る時に葯が裂開し、雌蕊に花粉を付けてしまうことになります。徐雄はピンセットを使用し、行うのですが、厄介なことです。アザミウマ、アリ、コバエなどの小さな昆虫が入らないようにするために袋の口はしっかりととじないといけません。また、雨や風のために袋が亡くなることがあるので、数をこなさないといけませんね。

K-ichi さんのコメント...

>また、蕾が十分に成熟すると、雄蕊を取る時に葯が裂開し、雌蕊に花粉を付けてしまうことになります。
これ、ダメ?

ルブス さんのコメント...

K-ichiさんの疑問はもっともなもので、その通りです。ただ、同じ花の花粉を雌蕊に付ける時には、花が開花していることが多く、すでに訪花昆虫が入った可能性もあり、信頼できる実験ではないと感じます。
蕾の時に袋をかけて、徐雄しないでおいて、開花した時に同じ花の雄蕊の花粉を雌蕊に付けて、結実を見るのは自家不和合性があるかないかの実験になると思います。この時に注意しないといけないのは、同一花で雌蕊と雄蕊の成熟が同じであるかどうか調べる必要があります。

ルブス さんのコメント...

ニガモミジについて
ニガイチゴとモミジイチゴの雑種については1962年に発表されていますが、私は同定間違いであろうと思っています。その後、長野県や宮城県でも報告がありました。しかし、どちらも、同定間違いでした。
そこで、K-ichiさん今年はニガイチゴとモミジイチゴの雑種の作成に挑戦してくれませんでしょうか。

K-ichi さんのコメント...

ニガ、モミジ、ビロードを母体にした雑種を何度か試みてはいますが、成功したためしがありません。加工するとそこから傷んでしまう感じです。自家受粉と交雑種は発芽すれば判るだろうということで、花同士をくっつける方法で結実まで至ったことはありますが、雑種らしいものは出ませんでした。
ただ、フィールドにはビロードモミジイチゴなるものはあるそうで、これらを母体にした雑種ができないわけではなさそうです。なかなか気難しい連中です。

ルブス さんのコメント...

確かにこの3者の雑種はできにくいようですね。
ただし、モミジとビロウドの雑種は古くより知られています。この場合、モミジが母親のようです。

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