ちなみに栽培は、種の維持を最優先とし、なるべくコスト(金、時間、労力)をかけずにシステマチックに、という方向で考えている。8号菊鉢に赤玉もしくは腐葉土を加えた赤玉土とし、2ヶ月に一度緩効性化成肥料を少量(袋記載の半分目安)与えている。植替えは基本的にしない。
根域制限などがあるので、野良より小ぶりになる可能性がある。寸法で決めているわけではないが、1mを超えるような場合は管理が大変なので剪定してしまうことがある。
■ コジキカジ(R. sumatranus × R. trifidus)/カジコジキ(R. trifidus × R. sumatranus)
この両者に差異は見られないが、一応ひと株ずつ確保してある。両親とも人の背丈を越える大型の種なので、この株も大きくなる。
基本形は3出複葉で、大きな葉では頂葉が3裂、側葉が2裂する。羽状複葉×単葉ではお決まりのパターンで、トヨラクサイチゴ(R. × toyorensis)も該当する。いろいろ掛け合わされたであろう市販のキイチゴ類、例えばボイセンベリー(R. ursinus × R. idaeus ※)もこのタイプ。
全身に毛が多く、無いのは花弁ぐらい。茎、葉柄、葉脈には、トゲおよび赤い腺毛。花柄、萼にも腺毛が多い。前年枝にも毛は残る。出始めのシュートは真っ赤に見える。
冬芽から数cm~20cmほどの小枝を伸ばし、数枚の葉を伴い先端に1~5個ほどの花を着ける。花は4cm程度。
やや縦長やや疎に実を着け、橙色に熟す。袋状にはならない。いくらか稔性はあり、F2やF3を育てたこともあったが、いずれも虫害により失っている。
葉の色が抜けているものがあるが、これはハダニの害。この項の最後の写真には、赤っぽいそれが写っている。
■ カジビロード(R. trifidus × R. corchorifolius)
何度か挑戦し失敗。難しいのかと思いきや22年施術では大量発芽。受粉タイミングなど何らかのシビアな部分はありつつも、交雑はしやすいのではと推測する。
逆パターンのビロード母体では成功せず、結実しても自家受粉と思われるビロードそのものしかできていない。
昨年は30cmを超えるまで育ち、今年は花も期待したのだが、冬場に枯れ込んでしまい着かなかった。
全体にビロードイチゴに似るがやや大振り。全身に毛がある。腺毛はない。トゲはややまばら。ビロードイチゴのシュートの先に見られる、紫がかる様子はない。
なお過去記事で、複葉になった株をこの雑種として扱っているものがあるが、トヨラクサイチゴであったと結論している。
ともかくクサイチゴが勝手に生える環境なので、受粉作業前の開花したビロードイチゴの花にクサイチゴの花粉が着いていたのでは、と想像する。
■ ハスノハモミジ(R. peltatus × R. palmatus)
花期が合わないため、天竜スーパー林道(1~2ヶ月季節が遅い)で採取したモミジイチゴと掛け合わせた。
発芽も少なく、発芽しても育たず、生き残っても成長せず。念のため株分けしておいた6号鉢のものがいちばん大きい状態。19年の1年生に比べれば育ってはいるが……株も増やしたことだし、今年はうんと遮光してみようかと考え中。
裂が深めのモミジイチゴのようだが、葉柄、葉脈などに毛が生えている。腺毛のような棘(?)はハスノハイチゴにも見られる。
育ったらどうか判らないが、現状をフィールドで見ても雑種とは気づかないレベル。
■ 恵那山関連
恵那山周辺では、ハスノハイチゴを初見し、期せずミヤマモミジイチゴ(R. pseudoacer)も見つけて、播いてみたらヒメクマイチゴ(R. × geraniifolius)になったり、いまだ解せない雑種らしきミヤマニガクマ(仮)(R. × nigakuma?)があったりと、いろいろお世話になっている。
そのミヤマニガクマ(仮)は、いつの間にか草間に消えてクマイチゴに置換してしまったので、昨年、あらためて採取してきた。同時に、周辺のぁゃιぃ者共も引っ捕らえてきた。
現存メンバーは、①Pに生えるミヤマニガクマ(仮)、②道路脇の斑なしクマ風、③山道の中裂片の異様に長いミヤマニガ、④⑤峠近くの葉裏があまり白くないミヤマニガ風2株。
あらためて観察すると、③は葉裏白く毛も無くミヤマニガでよさそうな雰囲気。④⑤はそこそこ白いがごく僅かに毛。前年枝も一部白いのでミヤマニガでいいかも。①②は枝葉は全く白くなく、いくらか毛も生える。ちなみに手持ちのニガ各株、ミヤマニガには毛はない。
①は開花せず、②④⑤はニガ様の花。③は開花見逃し。
手持ちの株で、クマミヤマニガを作出して1株得られたが、花はクマ様、若実はややクマ寄り、葉はややミヤマニガ、葉裏も枝も白くなく毛もある。サイズ感はクマよりだいぶ小さい。
予測が外れすぎて思考が止まっている。とりあえずは株をしっかり育てて来年考えたい。
ぁゃιぃ者共のなかには、9小葉のバライチゴもある。広河原登山口近くでひと群落だけあったもの。
バライチゴは大量に生えていて、大株小株いずれにせよ3対までの羽状複葉、というのがバライチゴの常識。ところがその群だけは、株の大きさは中庸ながら、ほぼ全てが4対になっていた。
育ててみると、4対は多いが3対もそれなりに出てきた。よくよく観察すると、普通の株では頂小葉の基部が切形になってはっきり葉柄があるが、4対のものは葉身が流れて曖昧なくさび型になる。頂葉の葉脈も、通常株では基部近くから側脈が出るが、4対株はそうならない。
単に頂小葉が割れやすいだけかもしれない。
■ 自家不和合性などの実験
モミジイチゴとニガイチゴについて、自家不和合性と雑種化の可能性について実験してみた。モミジイチゴ#3(R. palmatus)とキミノニガイチゴ#1-1(R. microphyllus f. miyakei)を使っている。
昨年はニガイチゴについて、全体に覆いを被せる形で行い、全く結実せず、不和合性がありそうだ、という結果を得た。ただし他家受粉させたものも実らなかった。
今年は雑種化も含めて行いたかったので、開花前の両株を屋内の虫のいない環境に置いて試した。それぞれの株で、無操作、自家他花受粉、交雑の3種類に分けた。正確に数えたわけではないが、ともに100花程度は咲いていたと思われる。無操作は多数、自家他花は3枝ほど、交雑はモミジニガは11花、ニガモミジは9花、施術した。
開花直後に花粉が出て雄蕊が開くころに雌蕊の準備が整う、というサイクルを念頭にしつつ、開花から花弁が落ちたあとまで、可能であれば枝に着いたまま、無理なら花ごと採って受粉させるという作業を1花に対して複数回行った。4/5には新たな開花がなくなり、十分余裕を見た同下旬に通常の圃場に戻した。
結果は、ニガイチゴは結実なし、モミジイチゴは自家他花のものが1果(4粒)のみ。このことから、両種は自家不和合性が強く、雑種化も非常にしにくい、と推測される。
普段の圃場においては、モミジイチゴは3株並べて栽培している。花期の近い2株は、毎年10や20の結実は見ている(2014年の例)。今年は上記株が1果、圃場に置いてあったものは4果(最大5粒)、と非常に実りが悪い。
実生の1株を工業地内の畑に下ろしたものがあるが、こちらも相当数の開花があったものの5果程度しか実っていない。ちなみにここには、ビロードイチゴ、ニガイチゴ、クサイチゴ、カジイチゴ、トヨラクサイチゴ、ニガクマイチゴが混植してあるが、先頭3者のみ開花があった。ミツバチなどの来訪はあり、各株間を行き来しているのを確認している。
モミジイチゴは自家不和合性が強く、雑種化もしにくい、ということへの補強情報になると考える。
普段の圃場には実験に使ったニガイチゴの元株ほかニガイチゴ系が多数あるが、こちらは順調に若実を着けている。
以前にはこの圃場で、開花済みの花を使ってのキミノニガモミジ実験をしたことがある。いくらかは結実を得られたが、得られた株はただのニガイチゴだった。
ニガイチゴもモミジイチゴとの雑種化はしにくい、という補強情報になると考える。
強いていえば、実験株において他家受粉もいくつか行って、この株この環境でも生る、ということを示せれば、より強い裏づけになったと思う。
【 和名、学名の出典等について 】
- 標準和名や学名は、基本的に「YList」ページを採用する。
- Ylistに掲載のないものは、 Wikipediaの「キイチゴ属」ページのものを使う。これには「※」を付す。
- 交雑種名は、特に著名なものはそれを使うことがある。それ以外は、和名は両親から「イチゴ」を取った合成名、学名は両親を「×」でつないで連名とする。いずれも母体を先にする。(参考1/参考2)
- 例:カジイチゴ(R. trifidus)を母体にコジキイチゴ(R. sumatranus)の花粉を付けたもの → カジコジキ(R. trifidus × R. sumatranus)
- 雑種は、入手個体を「F1」とみなす。特に必要がなければ「F1」とは記載しない。その子は「F2」となる。たとえばファールゴールドの実生は、「ラズベリー・ファールゴールドF2」と記す。
- 同種が複数株あって区別を要する場合は、和名の後に#番号を付す。従前1株だったものは、それを#1とする。株分けなど栄養繁殖個体は枝番号を付し、#1-1などとする。
10 件のコメント:
はじめまして。
木苺に関してお知恵をお借りしたいことがあるのですが良いでしょうか?
お答えできることであれば何なりと。
キミノ〇〇イチゴというのは見た目が黄色である事が必須なのでしょうか?
それとも黄色の部分があれば見た目が黄色でなくても良いのでしょうか?
常識的には「赤いはずなのに黄色いやつ」なわけですが、必須条件ではありません。
学名は、基準となる標本が作られ、学会雑誌等に発表されて認められると確立します。
和名は、学名が振られていて学会雑誌等で発表されて図鑑等でも採用されて「あーこれが標準的な名前だよね」という雰囲気が基になっています。だから標準和名と呼びます。
たとえば発表した鳴橋先生が、「キミノニガイチゴ」ではなく「レモンイロニガイチゴ」とか「ミヤケイチゴ」とか発表していれば、そうなった可能性もあります。見た目が三宅さんなわけないですよね。
ylist(http://ylist.info/ylist_simple_search.html)では、米倉先生らが図鑑やら学会論文やらを調べ上げた結果の標準和名が検索できます。でも、あくまで米倉先生らの判断によるものです。
例えばハチジョウクサイチゴは、別名ニシムライチゴとされていますが、鳴橋先生ほかWeb検索結果を見てもニシムラキイチゴの方が多くヒットします。
ちなみにキミノ○○イチゴの類は(数を見てないので断言はできませんが)、基本的に赤色が発現できない個体になります。なので一部にでも赤味が差すようなことはありません。たとえばニガイチゴは紅葉しますが、キミノニガイチゴは黄葉しかしません。もし怪しい個体を見つけたなら、気にして見てみてください。
詳しく教えていただきありがとうございます。赤い色が発現できないというのは自分も調べて知っていたのですが、気になる木苺があったので情報が知りたかったのです。
あるナワシロイチゴを育て、実がなった時に黒っぽい赤色をしていたのですが、なぜか花托側が黄色でした。
その個体を親にラズベリーと交雑させたところ、赤色が欠落してるのではないかと思うくらい黄色なのに外側の皮の付近のみ赤色が現れる個体に育ちました。色的にはオレンジにも見えます。もし親からの遺伝ならば黒っぽい見た目でキミノナワシロイチゴだったのかなと思い気になってしまいました。
現在発表されているキミノナワシロイチゴとは異なります。明らかに黄色い実が生るそうです。以下は原典と思われる論文です。
https://u-kochi.repo.nii.ac.jp/record/2972/files/05-%E7%AC%AC2%E5%8F%B7-103-111.pdf
いわゆるラズベリーは、何を掛け合わせたか不明な複雑な雑種ですし、それと掛けた結果が黄色っぽいのであれば「黄色っぽい雑種」ができただけですし、そもそもが赤い実が生っていたわけですから、仮に新種であったとしてもキミノ~と名づけるのは賛同は得られにくいと思います。
論文も調べてくださりありがとうございます。
そうなんですね。自分の中で本来の赤ではなく黄色ならばキミノ○○イチゴという思いこみが強かったようです。残念ですがキミノナワシロイチゴではなさそうですね。
自分の仮定としてはアントシアニンの生成に関わる遺伝子が皮と中身で別であり、本来両方欠落するはずが皮だけ残ったキミノナワシロイチゴなのではないかと考えていました。
親のナワシロイチゴに関しては遺伝子解析等していないため確実とまでは言えませんが遺伝してると考えています。あとだしにはなってしまうのですが、栄養状態がよく粒も多い実が外側から黒赤黄色のように見えます。ですが粒が少なかったり後半に熟した実は黒さが減って赤黄色に見え、今回できた木苺の濃い感じとなります。画像がある方がわかりやすいとは思います。すみません。
新種の可能性があるとしたら残すべきなんでしょうか?
実の色などは些細な違いとされる(学名ではf.レベル)ので、新種か、残すべきか、などは何ともいえません。
ただ、ちゃんと育って完熟した実がグラデーションになっているのであれば、市場性はあるかもしれませんね。
>アントシアニンの生成に関わる遺伝子が皮と中身で別であり、本来両方欠落するはずが皮だけ残ったキミノナワシロイチゴなのではないか
ナワシロイチゴで赤味が出るのは、花弁、トゲ、葉柄、茎の日向側、などもありますね。
>ナワシロイチゴで赤味が出るのは、花弁、
もしかしたら、白花だったのかしらん……
そういうものなんですね。昔何かで珍しい個体は失われないよう保護されているとか聞いたことがあったような記憶がありました。2個体のナワシロイチゴしか詳しく見たことがないため、珍しいのかどうかわからず廃棄して良いものか気になりました。
親の自生地は畑の林道でよく草刈りされているため、もしかしたらこの特徴の個体は僕の持ってる子だけかもしれないです。
グラデーションといっても粒をバラバラにしないと黒赤黄色には見えないんですよ。しかも写真や明るすぎる場所だと黒さがかなり薄くなります。生で見ると知識のない人ならクロイチゴかもと思うくらい黒いです。
親も子も枝とか赤くなりますね。実の部分以外普通ですね。
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